紅茶の製造(TEA MANUFACTURING)


1.茶摘み(PLUCKING : プラッキング)

 

茶摘みは、茶摘み婦による手摘みで行われ、しかも「一芯二葉摘み」と呼ばれる一つの新芽と二枚の若葉のみを摘み取る方法で、一日で一人あたり通常20~30kg、熟練者で30~40kgである。

近年では製造方法の進化により、「一芯三葉摘み」の地域もある。
生葉を製茶にすると、重量は約四分の一になるので、40kgの生葉から約10kgの製茶ができることになる。

 

茶摘みの時期は北インドのダージリンやアッサムでは3~11月に行われ厳寒期の12~2月までは休みに入る。
南インド、セイロン、ケニヤでは一年中摘採が行われている。


2.萎凋(WITHERING : ウィザーリング)

 

萎凋とは、陰干しにして生葉をやわらかくしおれさせることである。

摘み採られた生葉は、工場の萎凋棚の上に約10cmほどの厚さに広げられ、重量が40%減になるまでしおれさせる。

インドで12~18時間、セイロンで18~24時間かけて温風を送り柔らかくなるまで萎らせる。

芽の多いものや、生葉そのものの香りの良いものは、軽い萎凋で止める。

萎凋の程度が不十分なものは、製茶の時に紅茶の浸出液が薄く、青くさく、コクや渋味も乏しくなる。

萎凋が過度の場合、カップすい色が濃く、渋味が強過ぎる事が多いので、茶葉の状態をみて的確な萎凋時間を決めるには熟練を要する。


3.揉念(ROLLING : ローリング)

 

揉念とは、萎凋して柔らかくなった葉を、揉念機と呼ばれるローラーに かけて揉み、茶葉によじれを与えて茶葉の組織や細胞を破壊し、茶汁を絞り出して空気に触れさせ、タンニンの「酸化発酵」を促進させるものである。

揉念する時間は約60~90分であるが、この揉念する間に茶葉の発熱量が大きく、酸化発酵が進んでしまうので、発熱を抑える目的で、4 ~5回に分けて機械を止め、固まった葉を玉解機にかけてほぐし、冷却 して再び揉念機にかけるという作業を繰り返す。


4.玉解け篩い分け

(BALL BREAKING : ボールブレーキング、

GREEN SHIFTING : グリーンシフティング)

 

揉念している間に、充分に揉まれて塊状になった茶葉を、均一に酸化発酵させるために、荒目のメッシュ (網目) のついた電動式の台 (自動玉解き機) に送り、上下・左右にゆり動かして篩い分ける。

篩い落とされたものは、次の「発酵工程」に移され、篩い残されたものは再び揉念機にかけて、細かく仕上げられる。


5.酸化発酵(FERMENTATION : ファーメンテーション)

 

玉解きされて篩い落とされた茶葉は、発酵室に設けられた発酵棚に4~5cmの厚さに拡げられ、室内温度25℃、湿度90%の中で2~3時間放置して酸化発酵させる。

揉念~発酵の過程で、茶葉の色は緑色から鮮やかな暗褐色に変わり、紅茶特有の花香や果実香が発生する。 一般的に高温の下で発酵させた茶葉は黒味を帯びやすく、良質ではない。 発酵不足の茶は刺激が強目であり、不快な味となりがちで、発酵過多は香りや味が弱く特徴のないもので、抽出液は黒色になる。


6.乾燥(DRYING : ドライイング)

 

茶葉の酸化発酵が最適な状態の時に、発酵を完全に止めるために乾燥機の中に送り込み、茶葉を乾燥させる。 

乾燥はまず、80~90℃の熱風で15分程行い、茶葉の水分が20%程度になるように荒乾燥する。 さらに、本乾燥では75℃位で約20分間程行い、水分4%程度になるまで乾燥させる。

急激な乾燥によって、茶葉は暗褐色で小さく縮れて硬化した荒茶ができ上がる。


7.再生・仕上げ(SORTING : ソーティング)

 

紅茶を製造する場合、あらかじめOP型かBOP型のどちらかに分けて製造される。

例えば、ダージリン茶の場合、殆どのものがOP型に仕上げる目的で行なわれるが、乾燥して出来上がった荒茶の中にはいろいろな大きさの物が含まれている。 これを均一のサイズに仕上げるために、電動式の篩い分け機にかける。

この篩い分け機は5~6段の台になっており、それぞれの台に上か

ら順に荒目のものから細目へとメッシュが張られており、最上段に荒茶を流して、上下左右に振動させる事によってTGFOP、BOP、F、Dに篩い分けられる。 最上段のメッシュによって篩い残されたものは、カッターで切断して、再び篩い分け機にかけられ分類される。


8.梱包(PACKING : パッキング)

 

均一サイズに分類された仕上げ茶は、規定の量 (ダージリン茶:100~200kg、セイロンBOP茶:1000kg) になると、インヴォイス (製造番号) が付けられた銀紙で内張りされたベニヤ箱や紙袋に梱包された後、全世界のバイヤー (輸入業者) に出荷される。


9.紅茶の審査(TEA TASTING)

 

茶園で製造された茶はグレードごとにパッキングされた仕上げ茶で、この仕上げ茶が取引の対象となるためには、品質を鑑定して正当な販売価格を設定しなければならない。

販売者側

(生産者、仲介業者:ブローカー、輸出業者:エクスポーター)

 

茶園でインヴォイス (製造番号) やグレード (等級) ごとにパッキングされた仕上げ茶は、生産者やブローカー、エージェントによって取引に入る前にサンプルの鑑定を行い、 品質、販売価格を検討し相場の動向を見ながらオークションやプライベート・セールに出品する。

出品された茶は、ブローカーやエージェントによって、世界各国の輸入業者 (バイヤー) に、各茶園のインヴォイス (製造番号) ごとに、それぞれのテイスティング・サンプルとその販売希望価格が送られる。

購入者側

(輸入業者:インポーター、購入者)

 

購入者 (バイヤー) は、北インドのカルカッタ、南インドのコーチン、セイロンのコロンボ、インドネシアのジャカルタ、ケニヤのモンバサなどで毎週開かれるオークションの前に、テイスティング・サンプルとブローカー価格を受け取り、自国の水や嗜好に合うもの、自社のブレンド用として必要な茶をテイスティングで的確に見極め、エージェントや輸出業者を通じてオークションやプライベート・セールで品質に見合った正当な価格で購入し、適正価格で消費者に提供しなければならない。

 

茶産地やオークションが行われる現地での買い付けは、テイスティングする時に使用する水や訪問中の飲食による味覚の違いにより、誤った判断をする場合もあることを充分に注意しなければならない。

また、プライベート・セールは茶製造業者やエージェントがオークションを通さずに直接世界各国の輸入業者や小売商品製造業者に販売するもので、品質に対する価格を的確に判断できるテイスティング技術を持たない場合は、法外な値段で販売されることもあるので注意が必要である。


10.オークション(競売)

 

購入者 (輸入業者) は、茶産地の都市で開かれるオークションで自社に必要な茶を買い付けるためにテイスティングし、品質とオッファー価格を照らし合わせて検討し、希望価格で購入するために、ブローカーやエージェントにオーダー (注文) する。

 

各国のバイヤーから注文を受けたブローカーやエージェントは、オークション (競売) に参加し、購入者から依頼された茶を希望価格内で購入する。 競売への参加は入場許可証 (ライセンス)を持っ

た業者に限られ、ライセンス持たない業者や旅行者などの見学は許されるが、直接の参加は許可されない。

 

<現在のオークション開催地>

北インド   : カルカッタ(コルカタ)、シリグリ、ゴーハティー

南インド   : コーチン、クヌール

スリランカ  : コロンボ

インドネシア : ジャカルタ

東アフリカ  : モンバサ、マラウィー

 

1679年ロンドンのミンシン・レーンで開始され319年の歴史をもつ、ロンドン・オークションは、1998年6月29日のチャリティー・オークションを最後に歴史の幕を閉じた。 そのオークションで出品されたセイロン (スリランカ) のプッセラワ茶産地にあるHELLBODDE TEA ESTATE (ヘルボッデ茶園) のFP (フラワリーペコー) 1ケース44kgが、1kgあたり924ドル (100,000円以上) のプレミアム価格で落札された。


11.輸出~輸入

 

オークションで落札された茶やプライベート・セールで売買された茶は、バイヤー・エージェントやブローカーに引き渡される。 エージェント (輸出側) は各国の発注先のバイヤー (輸入業者) と売買契約を結び、輸入業者の指定する国の港や空港に輸出する。 輸出にあたって輸出税がかけられ、生産国の財源となる。

 

バイヤー (輸入側) は、積荷が入港すると税関倉庫で税関検査を経て、輸入税や消費税を支払い、輸入業者 (メーカー等) の倉庫や工場に移送して原料茶の取引は完了する。


12.ブレンド (配合:商品化)

 

工場に移送された原料茶は、商品化するためにミックス (混合) やブレンド (配合) が行われる。 

ブレンド (配合) は鑑定と同じように、紅茶を商品化するための重要なキーポイントであり、専門的な技術を要する部分である。

ミックスやブレンドの[第一目的]は、消費地の水に最も適した配合をして、良質の紅茶を作ることにある。

 

[第二の目的]は、単品で色、味、香りの全てにおいて完全な茶は、殆ど存在し得ないので、例えば、香りの強い茶は味が弱く、すい色が淡かったり、すい色の濃い茶は香りが弱かったりするので、優れている部分を伸ばし、欠けている部分を他のもので補うように配合し、色、味、香りの3拍子揃った安定した茶を作ることである。

100%ピュアー・ダージリン茶でも、外観、色、味、香り、価格のバランスを整えるために、他のダージリン茶園の茶とのミックス (ブレンド) が必要となる。

 

[第三の目的]は、茶は農作物であり、その年の天候や生産される季節によっても出来、不出来や、価格 (外貨) の変動にも左右されるので、一定の品質を維持しながら価格をも維持するためである。

喫茶店やレストラン、ホテルなどで使用される業務用商品、ブランド化された小売用商品などマーケット (市場) の嗜好に合う商品を提供するには、特に高度のブレンド技術が必要とされる。

今日、ガーデン・ティーとして販売されている特定茶園の限定茶は、その年限りの商品であり、売り切れば終わりで、一定品質の商品を提供し続ける永続性のあるものではない。 

 

特定茶園の限定品の単品輸入販売は、ブレンド技術は特に必要とはしないが、数ある茶園の中から季節ごとの茶やクォリティー・シーズン茶の特徴などをアピールして販売する方法もあるので、消費者に本物の紅茶を適正な価格で提供するには、買い付けの際に、その茶の品質に対する価格を的確に判断できるテイスティング技術が必要であることはいうまでもないことである。